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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)1069号 判決 1950年9月27日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人太田米吉上告趣意第一点について。

しかし、原審公判調書によれば、検事は、第一審判決記載のとおり被告事件を陳述した旨の記載があり、第一審判決には、本件犯罪事実と同趣旨の記載が存するから、検察官は、原審において、旧刑訴四〇七条によって準用せられる同三四五条一項所定の被告事件の要旨を陳述したこと明白である。されば、原審が各被告人に対し右検事の陳述と同一の被告事件を告げ、これに対する意見弁解を求めたのは正当であって、所論のように更に第一審判決書につき旧刑訴三四〇条又は三四二条の手続を行わねばならぬ法律上の根拠を見出すことができない。従つて、所論その一は、その理由がない。また、原判決は、判示事実を認定する証拠として各被告人の原審公判廷における判示同趣旨の供述を引用したものであって、書証としての原審公判調書における供述記載を採ったものではない。そして原審公判調書によれば、各被告人はいずれも判旨同趣旨の供述をしたものであること明白であるから、原判決には所論その二のような違法も存しない。論旨はすべて採ることができない。

同第二点について。

しかし、所論原審第一回公判調書には、太田弁護人は、弁第一号証乃至弁第六号証を提出し云々と明確に記載されており、所論のような空白は存しない。されば、所論は、原審の調書に副わない誤解に基く非難であるから、採ることができない。

弁護人鍛冶利一上告趣意第一点について。

しかし、原判決は、所論始末書の記載のみを採つて判示事実を認定したものではなく、被告人並びに原審相被告人杉本市平の原審公判廷における判示同趣旨の供述と所論始末書中の判示に照応する被害事実の記載部分とを綜合して認定したものであるから、原判決には所論の違法は存しない。それ故所論は採ることができない。

同第二点について。

しかし、原判決は、所論始末書の被害日時に関する記載を採つて判示事実を認定したものではなく、被告人並びに原審相被告人内田嘉道の原審公判廷における日時その他判示同趣旨の供述と所論始末書における判示に照応する被害事実に関する記載とを綜合して認定したものであるから、原判決には所論の違法は存しない。それ故、本論旨も採ることができない。

同第三点について。

しかし、憲法三七条二項は、証拠手続として、憲法上必ず被告人を立会わせて直接審理のみを行うべく、従って被告人の請求の無い場合でも、常に現実に被告人の反対訊問に曝らされない証人の供述又はこれに代わるべき証拠書類を証拠とすることを憲法上絶対に禁止した規定であるとすることはできない。されば刑訴応急措置法一二条一項の規定を以て右憲法規定の趣旨に違反又は矛盾するものとすることのできないことは既に当裁判所の判例とするところである。(昭和二三年(れ)第八三三号同二四年五月一八日大法廷判決参照)。

そして、本件では所論始末書又は被害届について原審公判廷でその作成者を訊問することを得る旨告げられたにかかわらず被告人並びに弁護人はこれが請求をしなかったこと記録上明らかであるから、原審がこれを証拠としたからといつて、違法であるということができない。本論旨も採るを得ない。

同第四点について。

しかし、刑法二五条所定の刑の執行を猶予するか否かは、事実審たる原裁判所が諸般の事情を参酌して適当に決定すべき裁量事項に属し、原審は諸般の事情を考慮してこれを与えるのを相当としなかったのであり、その間何等違法の点は認められないし、従って憲法一三條に違反しないことはいうまでもない。されば本論旨も採るを得ない。

よって旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介)

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